当科紹介

神経集中治療科 Neuro ICU & Coma Science Center

当院では、2016年4月(当時:朝霞台中央総合病院)より神経集中治療部を開設し、脳神経疾患を有する患者さまに対して高度な集中治療を提供しております。脳神経疾患の管理に精通した集中治療専門医が、神経集中治療室(Neuro ICU)に常駐し、日々、診療の質の維持・向上に努めています。

2018年には、TMGあさか医療センターとして新たにNeuro ICUを整備し、より一層充実した診療体制を構築いたしました。

神経集中治療は、2003年に米国でNeurocritical Care Society(NCS)が設立されて以降、注目を集めている専門領域です。さらに、脳神経疾患に特化した集中治療を担う「Neurointensivist(神経集中治療医)」という職種が公式に認可され、米国を中心に普及が進んでいます。一方、日本においては、いまだ発展途上の分野といえます。

当院では、日本における神経集中治療の発展に寄与すべく、院内外で先進的な取り組みを進め、脳神経疾患を有する患者さまの転帰改善に努めております。

Coma Science Center

当科では、Coma Science Center(コーマ・サイエンス・センター)を併設しております。”Coma(コーマ)”とは、日本語で「昏睡」を意味します。集中治療により生命の維持には成功しても、その後に昏睡状態や重度の意識障害が続く重症患者さまが多くいらっしゃいます。

当センターでは、こうした意識障害の背景にある原因を精査し、治療可能な昏睡状態を見逃さないことを目指して日々取り組んでおります。

そのためには、脳波モニタリングをはじめとする高度な検査が不可欠です。当院のNeuro ICUでは、他院にて意識障害の鑑別診断が困難とされた患者さまについても、治療方針のご相談や転院のご依頼に対応しております。また、意識障害に関連する分野においては、最先端の研究活動も積極的に行っており、科学的根拠に基づいた診療の実現に努めております。

対象となる疾患

当科では、以下のような重篤な脳神経系疾患を対象に診療を行っております。

  • 脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
  • 頭部外傷
  • 髄膜炎、脳炎
  • けいれん性てんかん重積状態
  • 心停止蘇生後の低酸素脳症
  • 脳神経外科手術後の患者さま(例:脳腫瘍手術後など)

神経集中治療の効果について

神経集中治療および神経集中治療医の介入が、患者さまの予後に良好な影響を与えることは、これまでに多数報告されています。

具体的には、

  • ICU滞在期間や在院日数の短縮
  • 死亡率の低下
  • 人工呼吸器装着期間の短縮
  • 自宅退院率の上昇
  • くも膜下出血患者における脳血管攣縮の発生率の低下

などが挙げられます。
また、神経集中治療医が一定期間集中的に治療へ介入することで、介入前後で患者さまの転帰に明らかな改善がみられたとする報告もあります。

チーム医療と診療体制について

当科では、毎朝、Neurocritical Care Team(神経集中治療チーム)によるベッドサイドラウンドを実施し、患者さま一人ひとりに最適な治療方針を、多職種で検討しています。

チームには、神経集中治療医、脳神経外科医、脳神経内科医、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士などが参加しており、専門的な視点から活発な意見交換が日々行われています。

各専門医からの継続的な助言が得られる体制が整っており、メディカルスタッフの意見も重視されています。神経集中治療医は、それら多職種の知見を統合し、最善の医療を患者さまに提供できるよう努めています。

包括的な全身管理と看護体制

Neurocritical Care Unit(神経集中治療室)では、“by Systems”(臓器別アセスメント)に基づいた評価と、看護師によるチェックリストを用いた管理により、見落としのない全身管理を実践しています。

また、神経集中治療に特化したNeurocritical Care Nurseによる、神経所見の継続的モニタリングや看護評価、体温管理、水分出納管理、感染症対策が徹底されており、質の高い神経集中ケアを支えています。

脳波モニタリング

当ユニットの大きな特徴のひとつが、脳波モニタリングの体制です。
当院では、原因不明の意識障害を有する患者さまを対象に、国際10–20法に基づいたビデオ付き脳波モニタリングを実施し、非けいれん性てんかん重積状態(NCSE)の早期検出に注力しています。

脳波の解析には、American Clinical Neurophysiology Society(米国臨床神経生理学会)による分類基準を採用し、診断の標準化と精度向上を図っています。

簡易脳波モニタリング

神経集中治療の役割は様々ですが、決して神経集中治療医一人でできる仕事ではありません。
看護師やその他のメディカルスタッフも含めNeurocritical Care Teamとして今後も成熟していくことを目指しています。

参考文献
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  9. Hirsch LJ et al. American Clinical Neurophysiology Society’s Standardized Critical Care EEG Terminology: 2012 version.

さいごに

神経集中治療には多岐にわたる役割がありますが、決して神経集中治療医ひとりで完結できる医療ではありません。

看護師をはじめとする薬剤師、理学療法士、栄養士などのメディカルスタッフと連携し、Neurocritical Care Teamとして協働することが不可欠です。

当科では、こうしたチーム医療の重要性を重視し、スタッフ全体が共通の目標に向かって成熟していくことを目指しています。 今後も、一人ひとりの専門性を生かしながら、より質の高い神経集中治療の提供に努めてまいります。